東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2694号 判決 1978年6月28日
昭和五一年(ネ)第二六七五号事件控訴人
同年(ネ)第二六九四号事件被控訴人(第一審原告) 鈴木郎
右訴訟代理人弁護士 鈴木弘喜
昭和五一年(ネ)第二六七五号事件被控訴人
同年(ネ)第二六九四号事件控訴人(第一審被告) 宮崎治助
右訴訟代理人弁護士 井口英一
主文
一 昭和五一年(ネ)第二六七五号事件について
1 控訴人(第一審原告)の本件控訴を棄却する。
2 控訴人(第一審原告)の当審における追加請求について
(一) 控訴人(第一審原告)と被控訴人(第一審被告)との間に存する別紙物件目録記載の土地についての賃貸借契約の賃料が昭和五二年四月一日以降一か月金七万一八九八円であることを確認する。
(二) 控訴人(第一審原告)のその余の請求を棄却する。
二 昭和五一年(ネ)第二六九四号事件について
原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人(第一審原告)と控訴人(第一審被告)との間に存する別紙物件目録記載の土地についての賃貸借契約の賃料が昭和四八年七月一日以降一か月金六万一九七〇円であることを確認する。
2 被控訴人(第一審原告)のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二分し、その一を昭和五一年(ネ)第二六七五号事件控訴人(同年(ネ)第二六九四号事件被控訴人・第一審原告)の負担とし、その余を昭和五一年(ネ)第二六七五号事件被控訴人(同年(ネ)第二六九四号事件控訴人・第一審被告)の各負担とする。
事実
第一審原告代理人は、第二六七五号事件につき「原判決を次のとおり変更する。第一審原告と第一審被告との間の別紙目録記載の土地についての賃貸借契約の賃料が、それぞれ一か月当り、昭和四八年七月一日以降同年一二月三一日まで金一〇万九九五〇円、昭和四九年一月一日以降昭和五〇年一二月三一日まで金一〇万三一〇〇円、昭和五一年一月一日以降昭和五二年三月三一日まで金一〇万九九五〇円、昭和五二年四月一日以降金一一万三五二〇円であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求め(昭和四九年一月一日以降に関する請求は当審で追加したものである。)、第二六九四号事件につき「第一審被告の本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
第一審被告代理人は、第二六七五号事件につき、「第一審原告の本件控訴及び当審における追加請求を棄却する。」との判決を求め、第二六九四号事件につき「原判決中第一審原告勝訴部分を取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠関係は、次のとおり、訂正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(第一審原告代理人の主張)
一 第一審原告の本件土地所有権の取得原因
原判決二枚目表四行目冒頭から同六行目末尾までを「武兵栄は、昭和二〇年九月一八日死亡し、第一審原告の父、訴外亡鈴木貞治が家督相続した。その後貞治が昭和四四年二月二五日死亡したため、第一審原告が相続により本件土地の所有権を取得した。」と訂正する。
二 当審において追加した請求についての請求原因
地代の統制額は、別表(一)(1)の算式によって算出されるのであるが、昭和四九年一月一日以降に固定資産税課税標準額が変更になり、それに伴い固定資産税及び都市計画税税額も変更されたので、それに従って地代統制額を計算すると同表(2)(イ)ないし(ニ)のとおりとなる(なお、各年度ともいずれも当該年度の一月一日から変更されるものであり、昭和四九、五〇年度分が前年度分に比して減額となっているのは、その間における統制額の制限によるものである。)
よって、昭和四九年一月一日以降昭和五〇年一二月三一日までの一か月分の賃料を第一審原告が従来請求してきた金額の範囲内である金一〇万三一〇〇円に変更し、昭和五一年一月一日以降昭和五二年三月三一日までの一か月分の賃料は、統制額の範囲内である従来第一審原告が確認請求してきた金一〇万九九五〇円とする。さらに、第一審原告は昭和五二年三月二日第一審被告に対し賃料を同年四月一日から一か月金一一万三五二〇円に増額する旨の請求をしたから、前記統制額の範囲内である右額を昭和五二年四月一日以降の賃料として確認請求する。
三 地代統制額に従い増額請求が認められるべき理由
1 地代家賃統制令は、地代及び家賃の騰貴を抑制し、附近類似の土地または建物の普通の地代または家賃と比較して対象物件のそれをできるかぎり低廉に定めてきたものであるから、統制令の定めるところに従って計算された地代、家賃は、普通の地代家賃と比較して低廉と考えてよいものである。
しかも、本件土地は、統制令の適用を受ける土地であるため、本件土地賃貸借契約に関して権利金、更新料等の賃料以外の金員が授受されていない。
以上のように、統制令は地主及び家主に犠牲を強いてきたのであるから、その改定があった場合には、その最高限度額までの増額を認めるのが公正にかなうものである。
したがって、統制額が変更された場合には、地主または家主は、当然右統制額が請求できるか、あるいは請求できる法慣習があるものというべきであり、そうでないとしても、統制額の変更に従って増額されるとする当事者間の暗黙の合意があると見るか、少くとも統制額をもって適正賃料額と推定すべきものである。
2 第一審被告は本件土地上に所有している建物を他に賃貸しているのであるが、右賃料については、統制令の適用を受け、純家賃と地代相当額の合計額とされるものであるところ、地代を原判決認定のごとく一か月七万一四〇四円とすると、第一審被告が昭和四九年以降に現実に得ている家賃は、統制額を越えることになる。
右のように、統制令の適用のある家賃は、地代との関連において決定されるものであり、その関連において考えれば、地代を低額におさえて家賃のみ統制額以上に受領することの不合理なことは明白である。第一審被告としては、家賃を適正なものとして受領しているはずであり、そうであれば、その基礎となる地代は統制令によって算出された額でなければならない。
四 第一審被告代理人の後記一の主張に対する反論
右主張にかかる賃料は、次に述べるとおり、いずれも適正賃料とは程遠いものであるばかりでなく、中には事実に反するものもあり、本件賃料の算定にあたって参考になるものではない。
1 別表(二)一覧表1について
この土地は、住居表示変更前は立川市柴崎三丁目六番地の三の土地である。ところで、右土地は、昭和四六年一二月二四日訴外小川ハル外一名から訴外吉野浅吉に譲渡され、小川ハル外一名との土地賃貸借契約は終了している。したがって、一覧表記載の小川ハルとの賃貸借契約の地代三六〇円というのは事実に反するものである。
2 同2について
この土地は、住居表示変更前は、立川市錦町二丁目三八番地の土地である。ところで、同番地には小川ハルの所有土地は存在しないし、また訴外松田明洋の所有家屋もない。また同人は同町に居住もしていない。同人が居住しているのは、立川市錦町二丁目二番二六号(変更前の同町二丁目七八番一一)である。そして同人が居住している建物は、第一審被告の弟である訴外宮崎泰市が所有している建物なのであり、その敷地が小川ハルの所有土地である。したがって土地賃貸借契約は、小川ハルと宮崎泰市との間にあるものであって、一覧表の記載は、この点においてすでに事実に反する。
仮に、本例が小川ハルと宮崎泰市との間の右賃貸借契約の地代であるとしても、三・三m2当り月額一〇〇円の地代は、次に述べるとおり、公租公課にも満たない極めて低額なものであって、到底適正賃料ということはできない。
すなわち、右土地の昭和四八年度の年間公租公課額は、次の額となる。
(イ) 固定資産税 一八、二三八、六〇〇円×14/1000=二五五、三四〇円
(ロ) 都市計画税 八七、五一一、八〇〇円×2/1000=一七五、〇二三円
(イ)+(ロ)=四三〇、三六三円
したがって三・三m2当り月額は
四三〇、三六三円÷九一五・二三(m2)×1/12×三・三(m2)=一二九円
このように、右土地の公租公課は月額三・三m2当り一二九円となるのであるから、地代が三・三m2当り月額一〇〇円とすると、公租公課よりも二九円も下廻ることとなるのである。
3 同3について
この土地は、住居表示変更前は立川市柴崎三丁目七九番地の土地である。右土地は固有地のため評価証明書が得られないので、隣接地の七九番地の二の土地の証明書に基づいて、右土地の昭和四八年度の年間公租公課額を算出すると次のとおりとなる。
(イ) 固定資産税 一〇、四八四、八〇〇円×14/1000=一四六、七八七円
(ロ) 都市計画税 二一、八二六、四〇〇円×2/1000=四三、六五二円
(イ)+(ロ)=一九〇、四三九円
したがって、三・三m2当り月額は
一九〇、四三九円÷二一〇・九七(m2)×1/12×三・三(m2)=二四八円
このように右土地の公租公課は、月額三・三m2当り二四八円になるのであるから、地代が三・三m2当り月額一五〇円とすると公租公課よりも九八円も低額となるから、この金額が適正賃料といえないことは明かである。
4 同4について
この土地は、住居表示変更前は立川市錦町二丁目五七番地の土地である。右土地は訴外中村義次の所有地であり、訴外雨沢兼光が右土地上に建物を所有している。
ところで、右土地の昭和四八年度の年間公租公課額を算出すると次のとおりとなる。
(イ) 固定資産税 四、八七九、〇〇〇円×14/1000=六八、三〇六円
(ロ) 都市計画税 二〇、三五八、三〇〇円×2/1000=四〇、七一六円
(イ)+(ロ)=一〇九、〇二二円
したがって三・三m2当り月額は 一〇九、〇二二円÷二〇四・九五(m2)×1/12×三・三(m2)=一四六円
このように、右土地の公租公課は月額一四六円となるのであるから、地代が三・三m2当り月額一五〇円とすると、公租公課より僅か四円を上廻るだけということになり、この金額が適正な賃料といえないことは明かである。
5 同5について
この土地は、住居表示変更前は、立川市柴崎町三丁目八三番地の土地である。右土地は訴外吉田真作が所有しており、右土地上に訴外原田留吉が建物を所有している。
ところで、右土地の昭和四八年度の年間公租公課額を算出すると次のとおりとなる。
(イ) 固定資産税 六、五五九、五〇〇円×14/1000=九一、八三三円
(ロ) 都市計画税 三七、〇六二、五〇〇円×2/1000=七四、一二五円
(イ)+(ロ)=一六五、九五八円
したがって三・三m2当り月額は 一六五、九五八円÷四六三・〇四(m2)×1/12×三・三(m2)=九九円
このように、右土地の公租公課は月額九九円となるのであるから、地代が三・三m2当り月額一四〇円とすると、公租公課より僅か四一円を上廻るだけということになり、この金額も適正な賃料といえないことは明かである。
(第一審被告代理人の主張)
一 本件地代の増額は近隣の地代に比しても極めて高額である。
すなわち、近隣の地代は別表(二)記載のとおりである。
二 第一審原告代理人の前記主張一及び二のうち、第一審原告代理人主張のとおりの増額請求がその主張の日時なされたことは認めるが、二のその余の主張はすべて争う。
(証拠関係)《省略》
理由
一 第一審原告の祖父訴外亡鈴木武兵栄が、昭和一〇年頃その所有の本件土地を期間二〇年、非堅固建物所有の目的で第一審被告に賃貸し、その後、第一審原告の父訴外亡鈴木貞治が昭和二〇年九月一八日及び第一審原告が昭和四四年二月二五日順次相続により本件土地の所有権を取得し、賃貸人たる地位を承継したこと、本件土地の賃料が一か月金八四六〇円(坪当り四七円)であったところ、第一審原告が第一審被告に対し、昭和四八年六月九日に右賃料を一か月金一〇万九九五〇円に、昭和五二年三月二日に同年四月一日から一か月金一一万三五二〇円に増額請求する旨の各意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によると、前記月額八四六〇円(坪当り四七円)の賃料は、昭和四六年七月一日に当事者間の合意で決定されたものであるが、第一審原告は、地代家賃統制令の適用のある土地の地代については、統制額の範囲内において増額されるべきであるとの見解に基づき、本訴において昭和四八年七月一日以降の各年度分の地代について当該年度分の統制額を基準とする地代額に増額されるべき旨の確認を求めている。
しかしながら、地代家賃統制令一条、三条、五条からすれば、同令による地代の統制は、国民生活の安定を図るため、地代の上限を制限し、その授受を禁ずる意味を有するだけのことであって、増額請求に関しても右以上の意味を有するものではない。すなわち、統制額が変更された場合に、増額請求の意思表示をすることなく、自動的に統制額まで増額される効果を生ずるものでないことはいうまでもないし、また統制額の範囲内において増額請求をした場合に、当然に統制額が基準となって右額まで増額請求の効果が生ずるというものでもなく、右の効果を生ずるためには格別の事由の存在を必要とするものというべきである。
しかるところ、第一審原告は、統制額が変更された場合には、統制額まで増額請求できる法慣習があると主張するけれども、右のごとき法慣習の存在することは認めるに足らない。
また、第一審原告は、統制額の変更に従って増額されるとする当事者間の暗黙の合意があるか、あるいは少くとも統制額をもって適正賃料額と推定すべきであると主張するけれども、昭和四六年建設大臣告示第二一六一号による改正前においては、別表(一)(1)の地代統制額の算出方式のうち「その年度の固定資産税の課税標準」に乗ずべき率50/1000が22/1000という低率であったため、統制額が事実上、約定賃料額の下限を画する機能を有し、したがって統制額によって地代を約定している場合には、統制額の変更に伴って、変更された統制額まで増額するとの暗黙の合意が存するものとみ、あるいは変更された統制額をもって適正賃料額と推定する余地が存したものということができたとしても、かなり高額となった改正後においては、同様に解することは一般に困難というべきである。しかも、変更された統制額まで当然増額せらるべきであるとする根拠を当事者間の暗黙の合意もしくは適正賃料の推定に求めるかぎりは、当該賃貸借契約における地代約定の経緯ことに既往の地代が統制額との関連において約定されたか否かを考慮することなしには変更された統制額まで当然増額せらるべきであるとすることはでき難いものというべきところ、本件土地の地代については、《証拠省略》に基づいて昭和四六年度の統制額を算出すると、月額三万三三九八円(坪当り一八五円)となるところ、実際支払賃料は前記のように月額八四六〇円(坪当り四七円)であり、原審鑑定人勝田悦夫の鑑定結果(以下、勝田鑑定という。)及び原審における第一審被告本人尋問の結果によって成立が認められる乙第一号証(株式会社朝日鑑定事務所作成の鑑定評価書、以下朝日鑑定という。)の鑑定結果の記載によっても、右実際支払賃料額と統制額との間にはなんらの関連性も認められず、むしろ、右第一審被告本人尋問の結果によると、本件土地の賃料が右のような金額となっていたのは、借地したのが昭和一〇年頃であることもさることながら、第一審被告が第一審原告の母の兄であるとの特殊事情によるものであったと推認することができる。
そうとすれば、本件土地について統制令が適用されると否とに関せず、本件土地の賃料については、なおさら統制額を基準とする増額請求を認めることはでき難いものといわざるを得ない。
なお、第一審原告は、本件土地の地代が統制額まで増額せらるべきであるとする根拠として、第一審被告が本件土地上に所有し他に賃貸している建物の家賃との関連をいうけれども、一般に地代の額は、家賃の額を構成するが、家賃の額によって決定されるものではないから、第一審原告の右主張は採用できない。
結局、統制額に従って増額せらるべき地代を算定すべきであるとする第一審原告の前記見解は失当であり、右見解に基づく前記主張の地代額は理由がない。
三 そこで、継続中の宅地賃貸借についての適正賃料の算定方法として一般に用いられている手法に従い本件土地の適正賃料額及び増額請求の当否につき、第一審原告主張の各年度分につき順次検討する。
1 昭和四八年七月一日以降の分について
右年度分の賃料については、後記認定の事情により、増額請求の要件を具えているものというべきである。そして、右年度分の適正賃料額に関しては勝田鑑定と朝日鑑定とがあり、両鑑定の適正賃料額の評価には差異があるのであるが、両鑑定の採った鑑定評価の手法は原理的に異っている。
すなわち、勝田鑑定の手法は、いわゆる差額配分法といわれるものであって、当該宅地の経済価値に即応した適正な賃料(積算賃料による)と実際支払賃料との間に発生している差額部分について貸主に帰属すべき分を判定して得た額を実際支払賃料に加算して増額すべき適正賃料を求める方法であり、勝田鑑定は昭和四八年七月分につき貸主に帰属すべき差額部分をその三分の一と判定するのを相当として算出したものである。
これに対し朝日鑑定は、いわゆる積算法によって昭和五〇年一二月一日現在の適正月額支払賃料を求め、その純賃料にスライド方式を適用し、賃料上昇率(近隣地域における標準的な値上率を基準として、消費者物価指数、地価変動率、固定資産税等負担額変動率等を勘案したもの)を乗じ、遡って昭和四八年七月現在の純賃料を求め、これに必要諸経費(固定資産税及び都市計画税)を加算して同月現在の適正月額継続賃料を求めたものである。
ところで、差額配分法は、もともと基礎価格(対象不動産の更地としての正常価格を基礎として求めるもの)と実際実質賃料(本件土地賃貸借契約においては、権利金等の賃料以外の金員が授受されている事実が認められないから、実際支払賃料)との間に相関関係が認められる場合には有用な手法ということができるとしても、右の関係が稀薄な場合には右の手法によることは必ずしも妥当ではなく、むしろ他の手法によるのが相当というべきである。
ところが、勝田鑑定及び朝日鑑定によると、本件土地の前記実際支払賃料月額八四六〇円(坪当り四七円)は、本件土地の基礎価格との間に相関関係があるものとは認められないから、勝田鑑定は、その基本的手法の点において採用し難いものというべきである。
ところで、本件においては前記実際支払賃料額は、その決定に影響を及ぼしたと推認される前記の特殊事情を考慮しても、なお客観的相当額ということができず(ちなみに、《証拠省略》によると、本件土地を含む柴崎町三丁目七八番宅地全体の昭和四六年度の固定資産税、都市計画税の合計額は年額二五万七九七〇円と認められ、本件土地の税負担率を朝日鑑定に従って〇・七五九二とすると、本件土地に対する右両税の合計月額は一万六三二一円(二五七、九七〇円×〇・七五九二÷一二)となるから、右実際支払賃料の月額は、税額を七八六一円も下廻ることとなる。)、しかも、第一審原、被告間においては、現段階に至ってはもはや前記特殊事情を考慮することなく客観的相当額をもって支払賃料と定めても妨げないというべきである。そして、そうとすれば昭和四八年七月一日以降の適正賃料額を算定するにあたっては、前記実際支払賃料額を基準とするスライド法によるのは相当でなく、朝日鑑定の用いた積算法を基礎とし、これにスライド法を併用するのが相当というべきである。
しかるところ、同鑑定の採用した本件土地の基礎価格、期待利廻り、賃料上昇率等は適正なものと認められるから、本件土地の昭和四八年七月分以降の適正賃料額は、朝日鑑定に従うのが相当というべきであり、これによると月額六万一九七〇円(坪当り三四四円)となる。
もっとも、適正継続賃料を定めるにあたっては、近隣、類似地域における継続賃料についての事例によって修正を加えて適正賃料額を裁定することも場合により妥当であるというべきであるけれども 第一審被告が比準賃料として主張する別表(二)の各事例については、これにそう乙第四号証が存在するけれども、同表証拠欄記載の各証拠に弁論の全趣旨を併せると、第一審原告の前記主張四1ないし5の各事実が認められるので、第一審被告の主張にかかる右の各事例は存在するとしても比準事例として採用し難く、他に適切な事例資料の存在することも証拠上認められないから、本件においては適正賃料額は結局朝日鑑定の前記鑑定結果によるのが相当というべきである(なお、右鑑定金額によると、従来の約七・三倍程度の増額となるものであるが、本件においては、前述のようにもともと実際支払賃料と基礎価格との間に関連性がなく、前記特殊事情を考慮することなく、実際支払賃料に対するスライド法によらずに積算法を基礎とし、これにスライド法を併用するのを相当とする以上は、右のごとき倍率となる結果もやむを得ないものとして是認されるべきことといわなければならない。)。
第一審原告が昭和四八年六月九日に第一審被告に対し、賃料を一か月一〇万九九五〇円に増額する旨の意思表示をしたことは前記のとおり当事者間に争いがないから、本件土地の賃料は右増額請求によって、その範囲内である前認定の月額六万一九七〇円(坪当り三四四円)に増額されたものである。
2 昭和四九年一月一日以降昭和五二年三月三一日までの分について
第一審原告は、右期間中の賃料について、変更された統制額を基準として増額せらるべき賃料額の確認を求めているけれども、統制額の変更に伴って自動的に増額の効果が生ずるものでないことは前述したところであり、しかも右の期間中に増額請求の意思表示をした事実のないことは第一審原告の主張に徴し明かである(増額の効果は遡って生ずることはないから、第一審原告が前記確認を求める旨の主張を追加した昭和五二年一一月一七日付準備書面をもって右増額請求の意思表示をしているものと解することも無意味である。また、第一審原告が本件訴訟を提起し維持していることによって継続的に増額請求の意思表示をしているものとも解すべきではない。)から、第一審原告の主張するごとき増額の効果は生ぜず、右期間中の適正賃料額は改めて判断することを要せず、前認定の昭和四八年七月一日以降の増額賃料月額六万一九七〇円(坪当り三四四円)によるよりほかないことになる。
3 昭和五二年四月一日以降の分について
第一審原告が昭和五二年三月二日に第一審被告に対し、賃料を同年四月一日から月額一一万三五二〇円に増額すべき旨の意思表示をしたことは前記のとおり当事者間に争いがない。
そこで、右増額請求時における適正賃料額について検討する。
右適正賃料額の算定方式は、前記積算法を基礎としたスライド法によるものを相当とするので、朝日鑑定によって基準とすべき価格時点を昭和五〇年一二月一日、右価格時点における本件土地の年額純賃料額を三九万四一五〇円とし、賃料上昇率は、《証拠省略》によって認められる昭和五〇年度及び昭和五二年度の固定資産税都市計画税から算出される同税の変動率(五〇万四〇四〇円分の五六万〇一五〇円)一〇〇分の一一一によるのが本件証拠上相当と認められるので右変動率によることとし、本件土地の税負担割合は前判示のとおり朝日鑑定によって〇・七五九二とし、以上によって昭和五二年四月一日時点における賃料額を試算すると、別表(三)記載のとおり月額七万一八九八円(坪当り三九九円)となる。
そして、本件証拠上、右試算額を修正すべき要因も格別見出し得ないので、右額をもって適正賃料額と認定するのが相当というべきである。
そうすると、前記増額請求にかかる昭和五二年四月一日においては、前記認定の増額時たる昭和四八年七月一日からほぼ四年を経過し、増額の要件も十分具えるに至っているものであるから、右昭和五二年四月一日以降の賃料は、右増額請求の範囲内である右認定の適正賃料額のとおりに増額すべきものといわなければならない。
四 以上によれば、本件土地の賃料は、前記各増額請求の意思表示によって昭和四八年七月一日以降月額六万一九七〇円、昭和五二年四月一日以降月額七万一八九八円にそれぞれ増額の効果が生じたものである。
したがって、第一審原告の控訴にかかる第二六七五号事件については、控訴は理由がないから、これを棄却すべく、当審で追加した請求は昭和五二年四月一日以降の分につき右認定の限度で認容し、その余は棄却すべく、第一審被告の控訴にかかる第二六九四号事件については、原判決を右認定の限度で変更すべきものである。
よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 堂園守正)
<以下省略>